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平成25年度日本接着学会中部支部講演会 参加報告

  2013年7月22日、愛知工業大学本山キャンパスにて「平成25年度日本接着学会中部支部講演会」が開催されました。大学、企業、公的研究機関などから合計29名が参加し、2件の講演が行われました。
  講演会は日本接着学会中部支部長の挨拶から始まり、続いて庶務幹事より支部活動の報告及び支部の紹介がありました。その後、「生物から学ぶ接合」というタイトルで物質・材料研究機構の細田奈麻絵先生による1件目のご講演が行われました(写真)。
  近年、リサイクルを基調とした循環型社会の実現が期待されるなか、生物のもつ構造や機能から得た知恵をものづくりに応用する「バイオミメティクス(生物模倣)」という科学技術が注目を浴びています。生物はそれ自身が持つ微細構造により、高効率・高性能・省エネルギーを実現しており、その知恵をものづくりに応用することで、環境低負荷技術の発展に大きく寄与できると期待されています。そういった背景の下、この講演では、ヤモリを中心とした、私達の身の回りにいる生物の接着・剥離機能のしくみやその研究の紹介が行われました。接着・接合強度を大きくする要因の1つである接触部の密着性を向上させる方法として、人工的な接合では接触部を原子レベルで平坦化させるのに対し、ヤモリなどの生物は接触部分を分割・薄片化し、また、変形し易いように細長く薄い毛状の表面を創るといった人工的接合技術と生物接着の違い、水平面に対して角度を変えることで可能となる可逆的接着、ごみが足裏の微細な毛に付着し、著しく接着力が低下した状態から再び接着力を回復させるセルフクリーニング機能、それらを応用した毛状接着剤の開発など、とても新鮮で学術的にも面白い内容を学ぶことができました。
  2件目は名古屋大学大学院工学研究科の佐藤浩太郎先生による「機能性バイオベース高分子材料開発に向けた植物由来ビニルモノマーの精密重合」というご講演でした。近年のリビング重合をはじめとした制御重合技術の進歩、また社会的ニーズとして持続可能な循環型社会の形成が求められるといった背景から、佐藤先生は、新規なバイオベースポリマーの開発を目的として、比較的安価で再生可能な植物由来ビニルモノマーにおける制御重合に関する研究を行っておられ、その成果について紹介をされました。この講演では、マツ科植物から直接採取されるテレビン油の主成分であるβ-ピネンを用いたリビングカチオン重合によるバイオベースシクロオレフィンポリマーの開発を始めとして、香料などに用いられるアニス油の主成分であるアネトールなどのバイオベーススチレン(フェニルプロパノイド類)の重合、グルコースの発酵によって得られるイタコン酸やその異性体であるシトラコン酸誘導体などのバイオベースアクリルの重合など、様々な植物由来のビニルモノマーと制御重合を用いることで新たな高分子材料の開発が可能であるという、こちらもとても興味深いお話でした。
  このような講演会に参加したのは初めてでしたが、被着体に木材という自然由来の材料を対象に研究している私にとって、今回、生き物を題材とした2つの講演はとても有意義でありました。

    (静岡大学大学院農学研究科修士課程2年 安田光輝)

細田奈麻絵先生のご講演
    写真 細田奈麻絵先生のご講演

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