一般社団法人 日本接着学会 中部支部ホームページ

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中部支部から2名・1社(4名)の受賞者!!


去る6月28、29両日に渡って開催されました日本接着学会第45回年次大会(東京大学弥生講堂)に於きまして、当支部所属の2名・1社(4名)に、それぞれ功績賞、進歩賞、技術賞の三賞が授与されました。本稿では、これを記念しまして受賞者の方々にそれぞれ受賞にあたっての短稿及び受賞理由をいただいておりますので、以下に受賞時の記念写真と共に掲載致します。

受賞された皆様、本当におめでとうございました。


授賞時記念写真 受賞者一同記念写真(於 東大弥生講堂)

◎ 功績賞: 稲垣 訓宏氏 (静岡大学工学部 名誉教授)

稲垣氏受賞の様子

稲垣訓宏氏は、高分子材料表面を機能化する技術として低温プラズマを利用した表面改質、ならびに機能性薄膜を創製する技術の開発に著しい功績があり、さらに日本接着学会・中部支部の発展に多大な貢献したとして平成19年度日本接着学会功績賞を受賞しました。
その功績の概略を説明します。

プラズマの中には、高分子材料の表面に作用して化学反応を引き起こす化学的に活性な種(電子、イオン、ラジカル)が存在する。"表面改質はどの活性種が関与しているのか?" の疑問に応え、プラズマ中のラジカルが表面改質の鍵を握っていること、このラジカルを有効に使う手法として "リモートプラズマ処理"という画期的な概念を同氏は打ち出した。
これらの研究成果は、Macromolecule, Journal of Applied Polymer Scienceなどへの国際学術雑誌へ発表、特許(リモートプラズマによる表面処理方法、公開平08-071144)を申請すると同時に、全260ページからなる書籍"Plasma Surface Modification and Plasma Polymerization"をアメリカから1996年に出版している。この書籍は、現在でもプラズマ処理、プラズマ重合の分野のバイブルの一冊として世界中で読まれている。

リモートプラズマ処理の概念はさらに細密化され、特定の化学種を表面に導入する表面改質(選択的表面改質、Selective Modification)へと進展させ、この技術はアモルファスカーボン表面へ展開し、DNAチップ用の基板へと展開されている。

国内外の学会および国際会議においても、これらの研究発表を積極的に行い、低温プラズマを応用した高分子材料の表面機能加工について、世界レベルでの技術の開発、推進の一翼を担った。長年にわたる国内外の研究者たちとの交流を礎に、2006年には、静岡県浜松市に於いて、"International Symposium on Science and Engineering of Interface Engineering"と題する、国際シンポジウムを同氏がオルガナイズして開催し、ヨーロッパ、アメリカ、アジア各国、および、国内の大学、企業の研究者らが多数参加して、好評を博した。

同氏は日本接着学会においても、本部評議員、中部支部幹事を長年にわたり歴任し、理事会活動、支部行事など積極的に遂行した。第39回 年次大会(2001年7月5、6日、金沢工業大学で開催)、ならびに第44回 年次大会(2006年6月30日、7月1日、愛知工業大学で開催)では、実行委員として、精力的に活動し、大会を成功させた。
また、中部支部において、接着入門講座、接着講座マスターコースの講師として「表面処理」の分野を講義し、最先端の技術を分かり易く紹介して好評を得た。

以上のように、稲垣訓宏氏は高分子材料表面を機能化する技術の開発に著しい功績があり、さらに日本接着学会・中部支部の発展に多大な貢献をしたことが認められ、今回、日本接着学会功績賞を受賞しました。


◎ 進歩賞: 山田 雅章氏 (静岡大学農学部環境森林科学科)

受賞研究テーマ: アセトアセチル化PVAの木材用接着剤への適用に関する研究

山田氏受賞講演の様子

この度は、「アセトアセチル化PVAの木材用接着剤への適用に関する研究」に対し、日本接着学会進歩賞という大変名誉のある賞をいただき、誠にありがとうございました。身に余る光栄と存じております。

ところで、この原稿は中部支部事務局をされているイイダ産業(株)の佐藤さんから、授賞式後の懇親会場で依頼されました。佐藤さん曰く「山田先生の受賞の模様を中部支部のHPに載せたいのですが、堅苦しいことを書いても誰も読みませんから、面白く書いてください」とのことでした。真面目な私にこんな要望をする佐藤さんは少々無謀ですが、いつもお世話になっている佐藤さんから頼まれた以上、引き受けざるを得ません。面白いかどうかはさておき、以下にこの研究にまつわるエピソードなどをご紹介したいと思います。

私が大学に赴任した約10年前、ちょうどシックハウス問題が顕在化し、これに対して様々な対応が始まった時期でした。私も化学物質の放散が無い(少ない)接着剤の開発が必要であることを感じており、何か新しい接着剤の開発でも始めようかと考えていたところ、当時名古屋にありました松栄化学工業(株)様から新しいタイプの酢酸ビニル樹脂エマルジョン(以下酢ビ)が開発されたことを知りました。

この酢ビは保護コロイドに反応性の高いアセトアセチル化ポリビニルアルコール(以下AA化PVA)を用いたもので、その反応性を利用して保護コロイド性を向上させるばかりでなく、接着性や耐水性をも改善した新しいタイプの接着剤でした。ちょうど大学時代のOBが松栄化学さんに在籍していたため、興味を持っているとのお話をしたところ、共同研究をすることになり、その基礎物性や反応メカニズムを研究することになりました。阿高さん、江崎先輩には大変お世話になりました。ありがとうございました。

その後、松栄化学工業(株)様の紹介でAA化PVAの製造メーカーである日本合成化学工業(株)様とも共同研究をさせていただくことになりました。共同研究をはじめて以来、渋谷さんをはじめ中央研究所の方々には大変お世話になっており、この関係は現在も続いております。今回の受賞内容となったPMDIの分散性に関しても、その実験のほとんどを中央研究所にて行わせていただきました。この場をお借りして感謝の意を表します。

ところで、今回の受賞に関しまして、多くの中部支部幹事の皆様方にお世話になりました。
中でも、岐阜大工学部のかせ村先生、高橋先生には本当にお世話になりました。3年程前の中化連で私がAA化PVA側鎖の有するPMDI分散性についての発表を行ったところ、かせ村先生からPVA水溶液の表面張力を測定すればもっと明確にその現象を説明できるとアドバイスをいただき、「うちの研究室で測定できるから一度来てはどうか」とのお誘いをいただきました。早速、学生を連れて測定に出向き、表面張力および界面張力の測定をご指導いただきました。本当にご丁寧なご指導、ご助言をいただき感謝しておりますとともに、このデータがあったからこそ、論文に説得力が生まれたものと思っております。また、支部長でいらしゃいます愛知工業大学の山田英介先生および同尾ノ内先生には推薦の件で大変お世話になりました。心より感謝いたします。

ところで、受賞候補者になりますと審査員の前で研究内容のプレゼンテーションを行います。当初、12分間のプレゼンと7分間の質疑応答があると聞いておりました。しかし、実際には質疑が20分近くありました。質問が段々と厳しくなり、最後の方は審査員先生の興味の話か?といった内容で、しどろもどろの返答になってしまいました。
こんな厳しい質問を受けるのは学生時代以来のことでしたが、自分にとって大変良い経験になりました。また、偶然かもしれませんが、審査員の中には中部支部幹事の方もいらっしゃいまして、その際にバックアップをいただきました。ありがとうございました。

ともあれ、このような光栄な賞をいただき、繰り返しになりますが感謝の気持ちで一杯です。今後、日本接着学会はもとより、中部支部のために貢献できるよう精進する次第であります。こんな私ですが、今後とも宜しくお願い致します。


◎ 技術賞: 日東電工株式会社(愛知県豊橋市)

・有満 幸生氏 (日東電工(株) インダストリアル事業本部 商品開発部主任研究員)
・村田 秋桐氏 (日東電工(株) インダストリアル事業本部 商品開発部主任研究員)
・下川 大輔氏 (日東電工(株) インダストリアル事業本部 商品開発部研究員)
・岸本 知子氏 (日東電工(株) インダストリアル事業本部 品質保証部研究員)


受賞研究テーマ: 熱剥離シート「リバアルファ」の開発

日東電工 有満氏受賞の様子

日東電工㈱のリバアルファが接着学会技術賞を受賞した。技術賞は、粘着技術の進歩に大きく貢献したと共に、社会的な普及に寄与した企業製品を表彰とするものである。ユーザーからの漠然とした要望であった「しっかり接着するが、簡単に剥がれてくれるテープが欲しい」という課題の実現に果敢に挑戦し、その相反する特性を両立させたユニークな粘着シート"熱剥離シート;「リバアルファ」"の開発に世界で初めて成功した。

「リバアルファ」は、必要な時には強固に接着し、剥離したい時には加熱するだけで接着力がなくなる画期的な粘着シートである。例えば、加熱前は4N/20mmの粘着力を有し、90℃で秒単位の加熱をすることで自然剥離する。上記の相反する特性を両立させるため、熱膨張性微粒子に注目したことに大きな成功要因があった。リバアルファを加熱すると、粘着剤中の熱膨張性微粒子が大きく膨らみ、粘着剤層表面に微細な凹凸を形成する。
そして、粘着剤と被着体とが面で接着した状態から点での接着へと変化し、接着面積が大きく減少する。これが剥離のメカニズムで、接着力を瞬時に消失させることを可能にした。

当初は売上げが上がらず、特定のユーザーで使用される特殊な製品であったが、今は、そのユニークな機能が認められ、国内外ほとんどの積層セラミックコンデンサーメーカの各種製造工程で使用されている。


編集及び体裁: 高橋 紳矢(岐阜大学工学部)

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